恋の人、愛の人。
気をつけて帰れよ、と見送ってくれた。
何だか今日も、ずっと見送られている気がした。振り返って確かめた訳ではないけど多分間違いではないと思う。
…はぁ。何となく、私の環境…変わりつつあるような気がする。
そんなに帰りが遅くなったつもりはなかった。
カチャカチャと鍵を開けて部屋に入ったら、リビングはもう明かりが消えていた。
…寝てるのね。そーっと通り過ぎた。
「梨薫さん」
うわっ、……びっくりした。
「ごめん、起こしちゃった?」
「いいえ、…起きてたんで。遅かったんですね」
「あ、うん。ちょっと、借りっ放しの物、返さなくちゃいけなくて、寄ってたの」
「そうでしたか」
もしかして、帰らないから心配してくれてたのかな。このまま帰って来ないんじゃないかって。そんなことも。
黒埼君は起きていたと言っても、身体を起こすでもなく、こっちに背を向けたままで話をしていた。
「遅くなったから、眠れない程心配してくれてたの?」
…。
…馬鹿な問い掛けだとは思った。冗談も含んでいた言葉だ。心配はしてる。それはいつも言ってくれてる事だから。
「…しますよ。身の心配はして当然でしょ?中々帰って来ない。…夜中なんですから。色々心配します」
「…うん、…ごめん。有り難う…」
「だけど、その心配の領域も…どこまで心配したらいいのか…。今は、無事帰って来たって事で安心してますけど」
「…一緒に居るから、心配してしまう?」
「そうですね…余計思いますね。
干渉はしない事にもなってますから。結局、心配は勝手にするだけって事ですよ。梨薫さんは自由…俺は…梨薫さんが好きなんだから」