恋の人、愛の人。


今朝は私の方がかなり早く部屋を出た。

当面の間、困らない程度の洋服の替え、身の回りの物。それを手に、会社より先にバーの裏に立ち寄った。

いつでも使っていい、そう言われて預かった鍵…。こんなに早く利用させて貰うなんて。
はぁ、私は一体何をしているんだろうか…。あんな風に言って、黒埼君を変に切なくさせてしまったと思う。
きっと陽佑さんはまだ寝ているだろう。

鍵を開け、部屋に入った。ベッドの上にバッグを置いた。
携帯を取り出し、メールした。

【バーの部屋に来ています。今夜から暫く使わせてください。早々に甘えてしまってごめんなさい】

本当に嫌な女だ…。はぁ…。
黒埼君の事、決して嫌いだとは思っていない。それが返って良くない。やっぱり夜一緒に居る事は難しい。…今更だ。解ってた事よ。

はぁ…昨夜は何とか切り抜けたけど…あんな風になるのは…恐い。人の思いを受け止めるって…こんなだったかな。当たり前だけど相手が真剣だから恐いんだ。
部屋は出て来たし、もうあんな事はないだろうけど。

朝ご飯は…どこかで済ませて行けば暫くの間だからなんとかなるか。
…洗濯は…はぁ、下着の洗濯はクリーニングって訳にはいかないか。近くのコインランドリーを探すしかないわね。
洗濯の為だけに部屋に帰るのもね。
はぁ…始めから、何もかも…自業自得だ。


カチャカチャ、ガチャ。

え…誰か来た。早足で近づいて来てる。
カフェタイムの従業員だろうか…。にしてもちょっと早いかな。…え、…誰だろう。…怖い。

足音がそこまで来た。…ゴク、…どうしよう、鍵、してない…。

「梨薫ちゃん?居るか?」

ドアの外から声を掛けられた。
あ、…はぁ…良かった、陽佑さんだ。

「はい」

「入るぞ?」

「はい」

「どうした…、何かあったのか、大丈夫なのか、こんな時間になんて。
あぁ…、一体、朝からどうしたんだ」

陽佑さん?
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