恋の人、愛の人。


「お待たせしました」

地下の駐車場に降り立つと、部長は約束通りエレベーターの横で待っていてくれた。

「忘れ物は無いかな」

「はい、大丈夫です。あの、申し訳ありません。一度どころか、二度も、部長をお待たせてしてしまって」

「ん?こんなのは普通の事だろ?女性を待つのは当たり前の事だよ」

…ほぅ。何て言うか、流石、紳士的なお言葉だ。

私、こんな日になると思っても無いから、極々普通の通勤スタイルなんだけど、大丈夫かな。
辛うじてパンツスタイルでなかっただけでも救いかな…。

「ん?」

「あ…いえ、何でもありません」

考え事一つしていてもバレてた。顔、見られてたのかな。

「では行こうか」

あ。また腕を回された。こんな風にされる事、奥様はドキドキしなかったのかな。
多分、部長は分け隔てなく、していたと思うのだけど。

「…はい」

ついでに言えば、いつもの事ではあるけど、部長のきちんとした三つ揃えのスーツ姿はあまりにも決まり過ぎていた。


車まで来ると開錠させドアを開けた。

「さあ、乗って?」

助手席のシートにゆっくりと腰を下ろし脚を入れた。
ドアが閉められた。…いやいや、こんな扱い、されたら…益々緊張してしまう。
それにこの車…クラスによって違う、とてもお高い高級車だ。ヒールの踵とか、引っ掛けたら大変だ。身体を小さくして座った。

部長が乗り込んで来た。

「ん?どうした?」

変に思ったのだろう。

「あ、はい。緊張してしまいます。中もですが、ちょっとした事で車体に傷を付けてしまわないかとか思ってしまいまして…そしたら」

…。

「ハハハ、大丈夫だ」

え?豪快に笑われてしまった。

「そんなのは無理無理。傷なんて、付く時には付くんだから。そんなに硬くなる事はない。
なんなら、私が車体でも蹴ろうか?」

スタートボタンを押している。

「……え゙。駄目です駄目です。わざとそんな事をするなんて駄目です。
どんだけ高いと車だと思ってるんですか」

「ハハハ、そうだな、わざとは駄目だな」

…あ。私ったら。

「…すみません」

車はゆっくりと進み始めた。

「車、好きなのかな?」

「はい。比較的好きな方だと思います。だから無意識にでも乱暴にドアを閉めたりだとか何も気にせずバッグや洋服のボタンが車体に当たったりするのとか人がしてると気になります。この車、好きな車なんです。あ、でもだからと言って、私なんかがおいそれと乗れる物ではありませんから。今は、ちょっと嬉しいです」

「そうか。いつでも乗せるよ?」

え?リップサービス?
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