恋の人、愛の人。
こんなことまで確かめられて、一体なんの話になるんだろう。
「気持ちは聞いてみないと解らないモノだから、不快な思いをさせてしまってすまなかった。
…梨薫さん、どうだろう。私とつき合ってみないか?」
「…え…え?部長…。何の悪戯…」
「悪ふざけではない。これは真剣な、真面目な話だ」
「は、あ」
「そんな…気のない返事をしないでくれないか…」
「あ、でも部長、……部長ー」
困って甘えたように呼んでしまった。
「私の気持ちはひた隠しにして来た、と言っただろ?」
「…すみません、あ。え、あれは、…え?…この事なんですか…」
私?
「そうだ」
「部長…10年越しの恋って…」
やっと部長の顔をちらっとだけ見た。ほんの少しだけ照れた、柔らかい眼差しがそこにあった。
「…うん、君の事だよ、梨薫さん」
10年て言ったら……、私が入社してからずっとって事になる。あの頃部長はどうだっただろう。もう、結婚はしていたのだろうか。
「10年前、私はまだ独身だったが、年明けから、丁度、元妻との見合い話が持ち上がっていた頃だった…。
恩師の紹介でもあって、見合いの段階では断れなかった話で…。うん…。見合いをした。私も、結婚は結婚で割り切ればいいとそう思っていたんだ。私にとっての結婚は…そんな思い方をしていた。
婚約まで話は進んでいた。進められていたと言った方がいいかな。
そんな時の春だ、君が入社して来たんだ」
はぁ、…全く気づきもしなかった。というか、その2年後くらいには私は稜と正式につき合い始めていた。ちゃんとつき合う前からの気持ちの期間を入れたら、部長の気持ちに気づくような…そんな余裕はなかった。思いもしない…。
仕事も余裕がなかったし、そのくせ、それ以上に稜に夢中だった。
声もまともに掛けられないのに、気持ちはとっくに稜で一杯になっていたから。