愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「俺との関係はすぐに終わる。彼はきっと、君を離しはしない。どちらがいいかなんて、比べるまでもないことだ。答えは見えてる」

彼女を突き放すように言う。

これはただの嫉妬だ。
彼女の記憶の中にある彼の存在が、いっそすべて消えてしまえばいいとさえ思うほどの。

「……どうしてそんなことを言うの?偽装結婚のための芝居をしたことを、後悔しているのは奏多さんのほうじゃないの。私には、会社にとってプラスとなる要素もないし」

瑠衣は泣きだしていた。
そんな彼女を見て、さらに苛立ちが募る。
俺は会社の話なんかはしていない。
泣きたいほどに大切な相手ならば、初めから偽装結婚の計画に応じる必要などなかったのではないかと思っただけだ。

自分がふたりを引き離したような気持ちになってしまう。
初めから応じなければ、俺もこんなわけのわからない気持ちに支配されずに済んだはずだ。
そう言って彼女を責めたい気持ちを、必死で封じこめる。

「ちょっと出てくる。君はここで休んでいて。頭を冷やしてくるよ。俺たちは今、冷静じゃないからね」

このままここにいたら、俺はまた、なにを言い出すかわからない。

それだけ言って、足早に部屋を出た。
廊下に出た瞬間、部屋のドアにもたれかかり額を手で押さえる。

「……余裕ないなぁ。なんでこんなことに」

小声でつぶやき、頭の中を整理しようと考える。

だけど瑠衣の顔がちらつき、どうしようもない。

ウェディングドレスを着たまま、俺の腹の上で座ったまま笑う彼女。
受付で声をかけると、驚いて目を見開いた顔。
ダンスのステップを踏むたびに、照れてはにかむ仕草。
長澤の後ろ姿を、淋しそうな目で見送っていた場面。

すべての場面に必ず、そんな彼女を、愛しく思いながら見つめていた自分がいた。




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