愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~

「そんな奏多さまが、瑠衣さまの前で感情を顕にする様子に、正直驚きました。遠い昔に見て以来、あなたの素顔を見たのは久しぶりのことでした」

俺は驚いた。
伊吹が過去の話をしたのは、秘書になってから初めてのことだった。

「奏多さまは瑠衣さまには本音で話せています。そんな瑠衣さまに、心を許しているのです。素直な気持ちが現れるのは、無理もないことです」

「……君も本音で話してよ。だったら、彼女を責めたくなったり、苦しくなったりするのはなぜだと思う?」

一瞬の沈黙のあと、伊吹はクスッと笑う。

「わかりました。取り返しがつかなくなる前に、今だけ、本音で話します。一瞬だけ失礼をいたしますが、お許しください」

伊吹は俯いて軽く息を吐くと、顔を上げて俺を見た。
その顔は無表情な秘書のものではなく、笑いを押し殺したような、にこやかなものだった。
子供の頃の彼は、いつだってこんなふうに、顔から笑みを消さなかったことを思い出す。

「悪いけど、見ていてイライラする。もう、思い切って言うよ?だから、君は彼女のことが好きなんだって。昔からそうだった。欲しいものも、やりたい遊びも、ぜんぶ俺と龍くんに譲ってさ、格好つけてたんだよ」

俺は目を見開き彼を見ていた。
まるで過去にタイムスリップしたような気分だ。
素の伊吹を見るのは、子供の頃以来だ。

「今回もどうせ、瑠衣さんのためだとか思って、身を引くつもりなんじゃない?大人なんだから、もうそういうのはよせよ。相手にすべて合わせることだけが、正しいわけじゃない」



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