愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「も、申し訳ありません。出すぎたことを申しました。お許しください」

杉田社長と呼ばれた男性が、がばっと頭を下げる様子を、奏多さんは冷ややかな目で見下ろす。

そのまま無言で、マイクを伊吹さんに返した。

「月島CEO!」

奏多さんは、呼びかけには答えない。
私の肩を抱き、歩いて会場へと向かおうとした。

「奏多さん?あの人は?あのままでいいの?」
私は頭を下げたままの男性を見ながら、小声で言った。

「いいんだよ。面倒だから。見せしめに彼を切れば、反対する者は少なくなる」

答えた彼の手を引っ張り、その場に止まらせる。

「ダメよ。人の人生がかかってるのよ。簡単に切るとか言わないの」

私は怒って彼に訴えた。

「じゃあこの先、君を貶めるやつが現れたら?身の危険だって、ないとは言えないんだぞ?」

「あるとも言えないわ。人って、悪いことしか考えないわけじゃないの。あなたは知らないかもしれないけど」

奏多さんも怒って言い返してくる。

「君は人がよすぎないか?」
「あなたが厳しすぎるの」
「瑠衣になにがわかるんだ」
場内の注目を一身に集めたままで、私たちは言い合う。

急にケンカを始めた私たちに、皆は驚いた顔をしている。
ヤバい。やめないと。
そう思うが、引けない気持ちが勝る。

あの男性の今後が、たったの一言で、私のせいで苦しいものになるなんて間違っている。
そもそも、私たち自体が嘘をついているのに。
そう思う気持ちが止まらなかった。



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