真夜中メリーゴーランド
「ストレスじゃねえの、那月ベンキョーばっかしてるイメージだし」
「そうだよ、無理はよくない」
心配そうにそういいながら、苦手なクリームパンにかぶりついた晴太が顔をしかめた。わざわざ苦手な甘いパンを買ってくる晴太はちょっと馬鹿だ。
「そんな、私は別に無理はしてない」
「そーかあ? 俺からしたら、早朝課外をサボらないこと自体すげえよ」
「晴太は例外でしょ。出席日数足りなくなって留年すればいいのに」
「うっわ、杏果ひでえな! お前だって楽器ばっか弾いてるじゃねーか。次のテスト大丈夫なのかよ」
「私は晴太と違ってちゃんと早朝課外も参加してるし、遅(ち)刻(こく)もしませんよーだ」
ふたりのやり取りに笑みを浮かべるけれど、うまく笑えない自分がいる。
勉強もバイオリンも両立させてがんばっている杏果と、学校に来なくても成績のいい晴太とは、私は違うから。
「那月はちゃんと勉強一本に絞ってるから偉いよね。受験生の鏡だよ。晴太も見ならったら?」
「杏果だけには言われたくねえ」
勉強一本に絞ってる、か。言われた言葉が重みを増して私の中にずっしりととどまる。
「……まあでも、本当になんかあったんならちゃんと相談しろよな」
「うん、ありがと」
晴太の言葉にうなずく。誰もなにも悪くない、けれど私の胸の中に残る黒い気持ち。私にしかわからないであろう、モヤモヤとした物体。よくわからないなにかに、押しつぶされそうだ。