愛しのエマ【完】
「エマさんの話をして下さい」
私はさりげなく副社長の手から逃れ
笑顔で飲みたくない水を飲む。
自分の心にストッパーをかけるには
エマさんの話を聞くに限る。
すると副社長は苦笑いをして
いつものように窓の外を見て
シアトルの空を探す。
空はもう薄暗い
カフェから見える景色は
ポツポツと淡い街灯が光を放ち
会社帰りの人の波が流れている。
「目が似てるんだ。丸くて愛らしい目が奈緒さんに似ている」
目の色は違うんだろうね。
彼女はブルーかな。
「どんな性格をされてるんです?」
「好奇心旺盛でいたずら好きだけど、頭はいい」
「同じ大学で知り合ったんですか?」
「うん。友人と一緒に遊びに来て、そのまま……fall in love」
恋に落ちたんだ。
心臓がギューっと捕まれたように苦しくなる。
「一緒に暮らしてたんですか?」
「抱いて寝てた」
抱いて寝てたのか。
同じベッドで寝てたんだ。
話を聞けば聞くほど
泣きそうな気分になるけれど
聞かないと
これ以上好きになるのを止められない。
「副社長は甘えん坊さんですね」
「甘えん坊?ショーグン?」
違う違う。
「それは違います。でも、離れてエマさんも寂しいですね」
「……だったら……いいけどね」
さっきまでの明るい副社長の表情が曇る。