愛しのエマ【完】

「副社長?」

「あ、ごめんごめん」

離れていると
心も離れてしまうのだろうか

遠距離恋愛は難しい
それも
海外との超遠距離恋愛。

「離れていても、エマさんを愛しているのでしょう」

「うん。愛してる」

愛してる
自虐の極致
究極のMだな私。

「戻りましょうか」

「そうだね」

私達はそれぞれ
大きなタメ息をして店を出る。

車に乗り込むけれど
副社長はエンジンをかけず
人気のない
静まり返るコンクリートの駐車場で、シートに身体を預け私の顔を見る。

言葉はなかった。

互いが求めているのがわかる
わかるけど

それはいけない。

副社長の手が伸びて
そっと私の頬を触る。
大切に優しく
高価な陶器を触るように
長い指を滑らせる。

「奈緒さんが好き」

そっと彼の唇が私の唇に重なった。

誰もいない駐車場で

重なるだけのキスをした。
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