ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
 次の日の昼ごろ、遅れて実験室の扉を開けた。と、正面に広海君が神妙な面持ちで立っていた。

「ごめんなさいっ」

と急に頭を深く下げる広海君。

「え?」

どうしたことだろう、いきなり広海君が謝ってくるなんて。と顔を上げた広海君が伏目がちに口を開いた。

「…ミライさんって、体が弱かったのね」

「え?」

何を言ってるんだ?と戸惑っていると、広海君が勝手に言葉を続けてきた。

「何か重い病気だったのよね。そのせいでしょ、髪の毛が違ってたの。その事知ってたら私、からかったりしなかったわ。先生だって、ミライさんの体の事知ってたから気に掛けてたのよね…。だから一緒に住んで面倒を見てあげてるのよね…。そうよね、先生がいきなり同棲なんてするワケないじゃない…」

と広海君。どうやら思いっきり勘違いしているみたいだ。

(ミライが病気だと思い込んでるのか)

道理で大人しくなるワケだよ。

(…でも、その方が話が上手く進みそうだゾ。よ~し)

ここは広海君の勘違いをそのまま利用させてもらおう。

「そうなんだよ実は」

と、一度ミライに目配せしてから広海君に答えると、広海君がキュッと肩を竦めた。

「んもう、そうだって初めから言ってくれてたらよかったのに…。ミライさん、体の方は大丈夫?」

「うん。もう平気だから」

とニッコリ答えたミライに、広海君が歩み寄った。

「何か困った事があったら言ってね。相談に乗るから。これからも一緒に頑張っていきましょう」

「うん。ありがとう」

と手を取って打ち解けあう二人。

(よかった。これで丸く収まりそうだ)

その時から、ミライと広海君の関係も上手く行き、すべてが順調に回り始めたのだった。
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