ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
 夜の八時をまわり出店の営業が終了を迎えた。外はすっかり秋風が吹いていて、祭の余韻の残る夜空の下をバラバラと人が帰り始めていた。

「これからどうするんだい、クワンたちは」

ちょっと酔っ払った感じのクワンに尋ねた。

「もう研究所に帰るつもりよ」

ねっ、とクワンがロイに振り向くと、頷いて返したロイがそのままクワンの唇にチュッとキスをした。

「じゃ、じゃあ、気をつけて」

相変わらずラブラブぶりを魅せつけてくれるじゃないか。

「楽しかったわ。ありがとう」

と、じゃあねと笑顔で手を振ったクワンがロイと寄り添い合って、周りをゾロゾロと歩いて帰る人込みの中へと紛れて行った。

「…帰ろうか、ミライ」

「うん」

振り向いて実験棟へと向かって歩く。すっかり人影がなくなった校舎に入り、五階に上がって実験室の前まで来ると、扉にメモが貼り付けてあった。

「先に自分ちに帰りま~す。ごゆっくり♪」

って、気を利かせて帰ったのか。ノブを握ると鍵が掛かっていて動かない。

「広海さん、先に帰ったのね」

メモをじっと見つめるミライの横顔が少し寂しげだ。
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