ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
 校舎に駆け込んで、ノックもそこそこに教授室の扉を開けると、真正面に広海君が立っていた。

「あっ、おはよう、さっきは」

ありがとう、と言葉を続ける間もなく、広海君がズンズンとミライの前に歩み寄った。

「フフッ、スゴイわ」

と薄ら笑いを浮かべたかと思うと、次の瞬間、人差し指をミライの襟元に突き立ててきた。

「あなた、ロボットよね」

えっ!まさかミライの正体もバレた?!と、広海君が眉間にグッと皺を寄せて言葉を続けてきた。

「変だって思ってた。食べられないほどの病気の割には全然痩せてないし、肌の色艶もいいし。…全部嘘よね」

とギロッと僕に目を向ける広海君。

「薬だって言ってたあのタンクはロボットのメタノールそのものなんでしょ。ロボットだから食べられない、ロボットだから正確にボーリングをマネられる、ロボットだから電磁石に反応して止まって倒れた…。そうでしょ、ねぇ先生」

とギッと僕を睨む広海君。ゴマかしようのない雰囲気に思わずうろたえた。

「あ、いやその…」

と口篭っていると、広海君がバッと僕の正面に向き直った。

「ずっと私を騙してたのよね。私を騙して、私の反応をずっと横で見てた。そうよね先生!」

握り締めた両手をワナワナ震わせて立つ広海君。これ以上、嘘の上塗りは出来そうにない。

「あ、ん、うん」

と答えた瞬間、広海君が僕の両腕をガッと掴んできた。

「ねえどうして?隠し事なんかしてないって言ったじゃない!どうしてよ!どうして嘘なんかっ」

と揺さ振ってくる広海君の腕を掴み返して止めた。アイタタタ、ここに来て裏目に出るなんて。
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