ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「…そういえば、さっきから全然動いてないですけど?」

あれからずーっと、彼女はピクリともせず、いつの間にか瞼を閉じてジ~ッと立ち尽くしていた。

「今はセーフモードの状態だからね」

と顎に手を当てる所長。

「何ですか?セーフモードって」

聞き返すと、所長がスッと彼女の前に進んで立った。

「最小限のシステムだけが稼動してる状態の事さ。このモードで再起動してガードを解かないと、システムに外部から接触出来ない仕組みになってるんだ」

と所長が彼女の肩をポンポンと叩き、パッと瞼を開けた彼女の目を覗き込むように顔を近づけた。まるで見つめ合うかの様に。

「スリープ解除。虹彩再照合中。お待ちください」

と唇を閉じたままの彼女のくぐもった声が聞こえてきた。

「声は喉の奥からスピーカーで?」

喉の奥から聞こえてきたように感じましたけど。

「スピーカーじゃないんだ。ちゃんと舌と口を使って声を発音するんだよ。だから唇を閉じてるとこうなる」

「へぇー」

舌まで作り込んであるんですか。

「虹彩照合。確認しました。指示をどうぞ」

「管理者変更」

「はい、管理者変更ですね」

「YES」

「新しい管理者の虹彩登録に入ります。どうぞ」

と、所長がスッと脇へ避けてこっちを向いた。

(…僕が彼女の新しい管理者になるって事、か)

何だかメイドとご主人様って関係みたいだぞ。

(照れくさいなぁ…。ま、仕方ないか)

僕は促されるまま、所長がしたように顔を近づけて彼女の目を覗き込んだ。
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