ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「血圧と脈拍を測っています」

とじっと見つめてくるミライ。僕の健康状態までチェックしてくれるのか。

「次は唾液のチェックです」

とミライがスッと顔を寄せてきた。えっ、まさか?

(あ…)

呆気に取られている間に、潤った唇と滑らかな舌が僕の口の中を掻き混ぜていった。いや、これは朝から刺激が強い。

「問題ないみたい」

と笑みをこぼすミライ。ミライにしてみれば、何の事はない朝の行事か。

「じゃあミライ、着替えて準備が出来たら、一緒に大学へ出掛けようか」

「うん」

と可愛らしく答えたミライが、爽やかな笑顔でベッドから体を起こして立ち上がった。



 マンションを出てミライと一緒に大学への路地を歩く。裏門を通り抜け、まだ春休みで学生の姿もまばらな構内を学部のある校舎へと歩いた。木々の間を飛び交う小鳥の鳴き声が辺りに響き渡る中で、横に付いて来るミライの足音が妙に耳に付いて離れない。

(いよいよこれからだ)

校舎が近づくにつれて高まる緊張感。

(…よし)

覚悟を決めて校舎の入口のガラス戸を開けて中へと進んだ。学生向けの掲示板のあるホールを通り抜け、壁のペンキの剥げかかった階段を二階へ上る。途中偶然すれ違った学生たちには怪しまれた様子はない。さらに廊下を進んで、いつも通りの時刻に教授室の扉をノックしてドアノブを掴んだ。

「おはようございます」

声を上げながら中へ入った。が、そこに教授の姿がない。

「あれ?」

両脇を書棚に挟まれた教授の机が空しくそこにあるだけだ。

(おかしいな、いつもなら…)

教授が鼻メガネで新聞に目を通している時間なんだけど。
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