ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「どうです栗栖所長」

と、座っていた教授が立ち上がって前へ出てきた。

「せっかく来て頂いたんだ、ミライ君と一緒に、ミライ君の新しい仕事場になる実験室を見て行きませんか。案内しましょう」

と微笑んでみせる教授。

「ええ、ぜひ!」

と嬉しそうに答える所長。と教授が自らドアを開けて廊下へ出て、先頭に立って歩きながら渡り廊下から新校舎のエレベーターホールへとみんなを導いた。

「大沢君が担当する、生理学的測定機器とビデオカメラを組み合わせる行動観察・解析という研究の性質上、実験環境を整える為に新合同研究棟の五階に無音室を備えた実験室を構えてましてね」

とエレベーターのボタンを押しながら説明する教授。と聞いた所長が頷きながら返した。

「確か、『設定環境下での行動発現に係る生理学的変化分析と研究』と言いましたか」

と真面目な口調で教授に答える所長。

「よくご存知で。様々な設定環境下での個々の個体での行動発現、集団での行動発現の変化を、複数の生理心理学的測定機器の具現的数値パラメータを交えて分析し、…」

と教授の得意満面の説明が、五階にある真新しい実験室に着くまで長々と続いた。

「さあどうぞ。ここが自慢の実験室ですよ」

と教授が、『携帯厳禁』と手書きの注意書きの貼られた鉄製の重たい扉を開けて構えた。扉の向こうにはまず側面の窓に沿って机が並んだ前室があり、防音ガラスが嵌め込まれた仕切り壁の向こうに、ワゴンに載った測定機器が無造作に置かれた電磁波防御の無音室があった。と教授がその部屋の中へとみんなを導いた。

「この無音室でデータの収集をやっている訳ですよ。主に学生複数人をモニターとして、映像や音楽、室温風量湿度も絡めて、様々な環境心理状況下での行動パターンを観察し解析を行なっている訳です。で、これらが測定に使う機器でして、」

とワゴンに載った測定機器類を説明して廻る教授に、所長とミライがウンウンと頷いて返していた。
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