ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
 それから数日間、どうしたワケか広海君は実験室に姿を現さなかった。

(ま、おかげでヒヤヒヤせずに済むけど)

一度データチェックの為に所長の研究所に行った以外、後はずっと実験室の中。その間にミライがすっかり実験手順を覚えてしまい、僕を相手に測定機器の取り付けからデータの収集、さらにバラバラに集めた測定データや画像を時間経過ごとに一本に纏める所まで、一通り出来るようになった。

(いつでも来いって感じだな)

そんなこんなで金曜日。明日からはようやく迎える週末だ。

(部屋にいれば余計な心配をしなくて済むし、ようやく気が抜けるナ)

定時を一時間ほど過ぎて、ホッと胸を撫で下ろしながら大学を出て帰り道をマンションへと向かった。一緒に歩くミライも怪しまれる事なく、無事に最後の曲がり角を曲がってさあ着くぞという時、見覚えのある車がアパートの前に止まっているのが見えた。

(あれは、所長?)

と車のドアがガチャッと開いて、笑顔の所長が姿を現した。

「やあ。元気そうで良かったよ。タンクの替えを持って来たんだ。ついでにいろいろと話も聞きたくてさ」

とガコンと開いたトランクから、所長を手伝ってタンクを抱え上げて、三階の部屋へと運んだ。

「どうだい、ミライとの毎日は。順調に過ごしてるかい?」

と明るく笑顔で尋ねてくる所長。

「ええまあ、今のところは。初日は大変でしたけどね」

広海君とのやり取りはデータチェックの時に話したでしょ、所長。

「でもまあ、上手くゴマかせてるじゃないか。その後は順調なんだろ?だったら問題ないよ。その調子その調子!」

と相変わらず軽いノリで肩を叩いてくる所長。言う方は簡単でしょうけど、実際やってるこっちは大変なんですよっ。

「そんな元気出ないですって。こっちはやっと週末だって、ホッとしてるぐらいなんですから」

と愚痴をこぼすと、所長がじーっと見つめ返してきた。
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