ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
 その日、部屋に帰ってきた時にはなんだかもうグッタリだった。

「ふ~、疲れた疲れた…」

尾行事件のダメージもあるし、今日の疲れは簡単には取れそうにないな。

「今日は先に入る?おフロ」

とミライが声を掛けてきてくれた。疲れを取るにはおフロが一番、そう言いたげな優しい笑顔だ。

「ああ、そうだね。じゃあ先に入らせてもらうよ」

と言葉に甘えて先にフロに入り、ミライが入っている間に夕食の準備をした。といってもオカズをレンジで温めて、ご飯をよそって、インスタントの味噌汁を付け加えるだけだけど。

「いただきます…」

準備が出来て一人箸をつける。食べている間に髪を乾かしパジャマに着替えたミライが戻って来て、ローテーブルの横にペタンと座り込んだ。当然、ミライの分は無い。

(一緒に食べられないってのは、やっぱりなんだか寂しいな…)

ミライは気にしていない様子だが、逆にそれが健気に見えてくる。

「ねえタカシ、私アイロンを掛けてみたい」

と突然、ミライが身を乗り出してきた。

「えっ、アイロンを?出来るのか?」

「うん。見てたから」

とニッコリ笑顔のミライ。

(見てたからって…)

まあちょっと心配だけど、一度やらせてみようか。

「じゃあお願いするよ」

「うん」

と頷いたミライが、アイロンをコンセントに差し込んでワイシャツをアイロン台に宛がい、アイロンが温まるのを待って、僕がやるのと全く同じ手順でアイロンを掛け始めた。

「…やるもんだね」

「フフッ」

と微笑んでアイロンを掛け続けるミライ。アイロンを滑らせる音とスチームの噴き出すシューッという音が部屋に響く。その音を聞きながらご飯を口へと運んだ。

(…いいかもな、こんな生活も)

パジャマ姿でアイロンを掛けるミライを、箸を動かしながらずっと眺めてた。
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