悪魔の囁きは溺愛の始まり
何を言って欲しいのかは分かる。

追い込むように言葉を続ける蒼大さんの思惑が手に取るように伝わる。


「一花も俺と同じ気持ちでいい?」

「…………。」

「俺を好き過ぎて困ってる?」

「困ってはいない。」


小さく呟けば、クスリと笑われてしまった。

ニヤニヤしている蒼大さんから目を逸らした。

だって心の中を読まれそうで嫌だったから。


「俺は困ってる。離れたくなくて。」

「………うん。」

「一花も離れたくない?」


繋がれている手に力が籠められる。

甘い囁きは毒のようだ。

心が蒼大さんに支配されていく。


「早く俺の気持ちに追いつけよ、一花。」


離れていく手を見つめていれば、クスクスと笑う蒼大さんの声が聞こえ、ハッと我に返った。


「名残惜しそうだな、一花。」

「………。」

「おやすみ。」

「おやすみ、蒼大さん。」


車に乗り込めば、エンジンが掛けられる。

最後に窓を開けて微笑んだ蒼大さんが、ガレージを出ていく姿を車が見えなくなるまで見送っていた。
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