お見合い結婚時々妄想
祥子の足が大分良くなった頃、義兄の修司さんから連絡があった


『弟の昇司と男3人で飲みにでも行きませんか?』


結婚前から行きましょうとは言っていたものの、まだ実現していなかったので、喜んで誘いを受けた
祥子も行ってらっしゃいと送り出してくれて、居酒屋で飲むことになった


「兄貴と慎兄は、この前会ったばっかりなんだよな?姉貴が事故に遭った時に」
「そう。母さんは切れるし。大変だった」


ははっと笑ったのは、義弟の昇司くん
高校教師で、数学を教えている


「でもお義母さん、本当に心配してたから、しょうがないよ」
「だからと言って、慎さんと皆川のお父さんの前でさあ。本当にすいませんでした、慎さん」
「いいえ、気にしないで。お義兄さん」
「だから、お義兄さんはやめろって言ってるのに。ただでさえ俺のが年下なんだから」


頭を抱えてるのは、義兄の修司さん
地方公務員として働いていて、僕が「お義兄さん」と呼ぶのを心から嫌がっている


「すいません、修司さん」
「だから、昇司と同じで『修司くん』でいいから!」
「いやいや、自分の奥さんのお兄さんですから、敬意をこめて呼ばせて頂きます」


僕が恭しく頭を下げると、皆で笑った


「でも、やっと3人で飲めたな。特に慎兄忙しいから。今日は本当に大丈夫だった?」
「うん、最近部下達も自分で責任持ってやってくれるようになったし、みんな祥子のファンだから、早く家に帰れって言われるんだ」
「祥子のファン!?慎さんの部下が?何で?」
「この前、部下達を家に呼んで、祥子が料理を振る舞ったんだ。それ以来、みんな祥子のファンになっちゃって」


へぇ〜と、言って昇司くんがビールを注いでくれた


「姉貴は料理上手いもんな。長年やってるだけあって」
「でも、いつか作った麻婆豆腐は最悪だったな」


2人で思い出したのか、顔をしかめている


「そうそう。姉貴が中学ぐらいの時かな?何入れたのか分からないけど、滅茶苦茶辛くて、3人で水をがぶ飲みしたよな」
「でも、文句言ったら祥子すぐ拗ねて、1週間は作ってくれないから、我慢して食べたな」
「姉貴も、頑固なとこあるから、我慢して黙々と食べてたし」
「あぁ、ヤバい。思い出したら喉渇いてきた」


修司さんはビールを一気に飲んだ
僕はビールを注ぎ足したしながら言った


「そんなにひどかったの?今の祥子からは考えられないな。我慢して食べてるのは想像つくけど」


中学時代の祥子はどんなだったのだろうと考えると、ふっと笑ってしまった


「つくづく思うけど、慎兄ってさ、よく姉貴をもらってくれたよね。もっといい人いただろうに」
「おい、昇司。やめろって」


いいんですよと、修司さんにビールを注いだ


「それ、祥子もよく言ってた」
「やっぱり?姉貴も思ってたんだ」


ふっと笑ってビールを飲んだ


「でも僕と祥子、同じ大学出てるから、そんなに違いはないと思うけど」


2人は驚いた顔をした


「慎さんもH大?」
「そう」
「すっげー。自慢じゃないけど、俺と兄貴は落ちたからね。H大。姉貴は楽に合格出来たけど」
「そうなんだ」
「でも、姉貴ってさぁ……なあ、兄貴」
「あ?あぁ……あれな」


2人が言ってることは、多分トリップのことだろうな


「大丈夫だよ。それなら見合いで初めて会った時に見たから」


えっ?と心底驚いている昇司くん
修司さんは、ビールを吹き出すし

「そんなに驚かなくても。もう結婚して半年ぐらい経つんだよ?何回も見てるよ」
「あれ見て、なんとも思わなかったの?慎兄」


いくら弟でも、ひどくない?そのもの言い


「素直で嘘つけない人なんだなぁとは思ったけど、後は別に何とも。何で信じられないって顔してんの?昇司くん」
「だって。なぁ、兄貴。何とか言えよ」


昇司くんが修司さんに助け舟を出したが、修司さんは声をあげて笑った


「あ、兄貴?」


しばらく修司さんは笑っていた


「ごめんごめん。祥子はいい人と結婚したなぁって思ってさ」


笑いが治まると、ビールをぐいっと飲んだ


「慎さん。祥子が妄想するようになったきっかけなんだけど」
「きっかけ?」
「うん。俺は医学の知識なんてないし、祥子を医者にも見せたことないから、違うかもしれないんだけど」
「うん。何?修司さん」
「多分、父親が死んだのがきっかけだと思う」
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