Marriage Knot
「どうしました?」

じっと見つめる私の視線に気づいた副社長が、いぶかしそうにこちらを見やる。

「いえっ、その……あの……本当に、八重原様、なのかな、と」

こう思っているのはうそではない。まさかあこがれの人があまりに素敵で見とれていました、なんて言えない。

「本当ですよ。結瀬桐哉(とうや)という名前でオーダーしても、不審に思われますから、八重原桐哉、でオーダーしたのです。ところで……」

副社長は、ぐっと身を寄せてきた。耳元に吐息がかかる距離。思わず心臓が跳ね上がる。

「あなたは、うちの社員ですね。しかし、うちでは副業禁止の規定があるはずです。ご存知でしたか?」

丁寧な言葉で、副社長は私の痛いところを突く。私は目をそらし、身体を少しよじってうつむく。彼は素知らぬ顔で、この場から逃げ出したい気持ちの私を、言葉で押さえつける。ガラスの靴を王子に奪われて、帰ろうにも帰れないシンデレラ。

「あなたが僕の頼みを聞いてくれたなら、このことは内密にしておきますが、いかがですか」
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