【短編】甘えないで、千晶くん!
「ち、千晶くん」
「なんだ、紗和もデート?」
振り返れば私服姿の千晶くんと、その隣には綺麗な女の人。
「あ、幼なじみちゃんだぁ。初めまして」
「あ、ど、どうも」
10cmくらいはありそうなハイヒールの踵を鳴らして近付いてくるのは、確か3年生の田中先輩。
去年のミスコンのグランプリで、多分、女子版千晶くんと言っても過言ではないくらいの人。
なんで田中先輩が私のことを知っているんだろうと不審に思ったけど、ああして毎日一緒にいればそれくらい広まってて当然か。
「偶然じゃん。何観にきたの?」
「…今CMでめっちゃやってるやつ」
「え、まじ?」
「…………え」
形のいい眉をひょい、と上げた千晶くんが差し出してきたチケット。
…私たちの観るやつと同じじゃん。
しかも、席番まで隣だし。
「偶然にも程があるでしょ。うける」
「…そうですね」