ブーケ・リハーサル
「ご主人と仲が良いんですね」
「当たり前じゃない。私の最愛の人だもの」

 さすがフランス人。日本人が言わない言葉をいとも簡単に言ってしまう。そして、それが不自然ではなく、自然と会話に組み込まれていく。

「ガーデニングがご趣味と聞きましたが、ご自宅でも植物を育てているのですか?」
「少し。フランスの家の庭と比べると、こっちの家の庭は狭くて、ガーデニングというより花壇があると言ったほうが正しい気がするわ。それにしても暑いわ。喉が渇かない?」
「では、戻りましょうか?」
「今、戻っても退屈なだけよ」

 確かにそうだ。しかもこんな早くに戻っては、奥様と仲良くもなれずに終わる。

 とりあえず、庭園内にあるベンチに奥様を座らせた。

「私、なにか飲み物を持ってきますので、少々ここで待ってもらえますか?」
「ええ、分かったわ」

 料亭に戻り、グラスでなにか冷たい飲み物を仲居さんに頼もうかと思った。ベンチでは飲みにくいかな。料亭を出たところに自販機があったはず。

 通りがかった仲居さんに事情を説明して、自販機で買ったものを持ち込む許可をもらった。小走りで自販機まで行き、目当てのものを買う。それを持って奥様の所へ戻った。

「お待たせしました。どうぞ」
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