ブーケ・リハーサル
 奥様は私が差し出した飲み物を不思議そうな顔で見つめている。

「これはなに?」
「これはラムネです」
「ラムネ?」
「はい。甘い炭酸飲料です」

 奥様が両手で瓶を受け取り、瓶を眺めている。珍しいのだろう。

「これ、どうやって明けるの?」
「貸してください」

 瓶の口に付いているラッピングを外し、掌でキャップをぐっと押した。するとビー玉がプシュッという音と共に中へ落ちた。

「どうぞ」
「このガラス玉で栓をしていたの?」

 中でゆらゆらと動くビー玉を見つめながら、奥様は言った。

「そうです。どうぞ飲んでみてください」

 恐る恐る奥様が瓶に口をつけた。そして味見をするように一口よりも少ない量を口に含んだ。

「美味しい」
「でしょ」

 私も瓶のふたを開け、一口飲んだ。久しぶりに飲むラムネは懐かしい気持ちにさせる。

「この瓶、とても美しいわね。中でガラス玉がぶつかって、いい音がする」
「この音を聞くと、少しだけ涼しくなりませんか?」
「そうね。爽やかな風の音みたい」
「日本人は少しでもこの暑さを和らげるために、色や音の力を借りているんです」
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