マリンシュガーブルー
 すごく気持ちが走って、また彼の自宅まですっ飛んで行ってしまって、ほんとうにこれで結婚していいのかな。
 またそんな自信なさげな自分がもたげてくる。

 でも美鈴は、ホテルまで届けてくれ背を向けて帰っていく彼を見て思う。
 やっぱり嫌。二度と会えないなんて嫌。
 それだけ気持ちが走ってしまった男性ひと。これが本物なんだと痛感した。

 私達には恋人のような期間がなかった。でも、わかるの。
 本当の恋は、もうその時に身も心も墜ちている。
 あの人がお店に来て、品良く食べてくれ、いつしか言葉を交わして、また彼が来るのを待っている。
 彼も私を見つけて、私を遠くにしながらも拠り所にして会いに来てくれていた。私達はすこしずつ、惹かれて恋に墜ちた。それで充分。

 だからもう怖くない。彼が広島から離れられない刑事でも、危険な仕事が多くても、美鈴もすぐに広島には行けなくても、それでも二人一緒に会える場所があるならなんとなかる。そう思っている。彼もきっと、美鈴がいるところに帰ってきてくれる。

 今日も瀬戸の空は青く、島の緑は清々しい。
 潮の匂いに包まれ、美鈴はひとり港町に帰る。
 でも、身体の中、心の中、いっぱいに彼がいる。
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