マリンシュガーブルー
 彼が制服を着て現れたのは、美鈴が待つ港町に再び訪れた日。

「え、制服……着てきてくれたの」

 道後温泉のホテルから店の駐車場までレンタカーで行くよと伝えてくれていた尊を迎えに行って、運転席から降りてきた制服姿の尊に美鈴は見とれてしまう。

 夏の水色のシャツに紺のスラックス、制帽までかぶってきてくれた。袖には県警のワッペンがついている。

「休暇だけれど愛媛県警の上の方に会う用事があって制服を着て行きました。そのままこちらに来ましたけれど、まず宗佑君に本物の警察官だと信じてもらいたくて」

「そこまでしなくても、スーツでも良かったのに。もう宗佑も香江さんから聞いて知っているんだから」
「亡くなられたご両親へのご挨拶もあるから、きちんとしてきたつもりだよ。そのあとここで着替えさせてください」

 厳つい顔をしているけれど、尊はそこはかとない品格があった。妹の香江も上品な奥様だったから、きっとお育ちがよいのだと思う。

「妹がもう大騒ぎで。昨夜も俺のマンションに押しかけてきて、甥と姪と食事を一緒にしようといいながら夜遅くまで入り浸って、あれこれ俺に結婚とはねと説教を……」

 まだ蝉の鳴き声が残る熱風が吹く港で、彼が制帽のつばを少し抓んで目元を隠す。ちょっと怒った顔が、出会った頃の彼を思わせた。なのにその怒っている顔が、妹さんがすることに困り果てての表情だと思うと美鈴はちょっと笑いたくなってくる。
< 107 / 110 >

この作品をシェア

pagetop