マリンシュガーブルー
「うちも、同じ。弟の妻、義妹の莉子が心待ちにしているの。初めて会うでしょう」
「うん。もうすぐ出産らしいね。彼女があの銃撃の時、二階にいてくれて良かった」
「自分だけ一度も尊さんに会ったことがないとずっと拗ねていたの。今日は弟と一緒に尊さんが来る来ると朝から大騒ぎなの」

 行きましょう。美鈴は彼の手を引っ張った。でも、彼は立ち止まったまま。

 凛々しい制服姿で、潮風の中『Dining cafe Marina』を見上げている。

「また戻ってこられた」
「そうね」
「宗佑君のうまいメシに、美鈴さんの綺麗な声と笑顔。捜査で入ったとはいえ、俺の帰りたい場所になっていた」
「うん……。ありがとう。気に入ってくれて」
「気に入る? どっちにも心底、惚れたんだよ」

 どっちも? 今日もエプロン姿の美鈴は制服の彼を見上げる。制帽のつばの影から、彼の優しい眼差しが注がれる。

「美鈴にも、宗佑君にもね」
「え、もしかして私を気に入ってくれたのは、宗佑の料理ありきだったの?」
「まあ、確かに。宗佑君の料理を先に気に入ったのは確かだけれど」

 彼がちょっと意地悪そうに笑う。そんな冗談も言えるの。ちょっと美鈴は戸惑ったけれど、でももう一緒に笑っていた。

「今日は道後温泉のホテルにダブルベッドで予約したんだ。美鈴さん、来てくれるよね」

 勝手にそんな予約までしていて、びっくりしたけれど。もちろん、美鈴もそのつもり。
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