マリンシュガーブルー
 水平線で揺れる蜃気楼の中、今日も貨物船やタンカー、漁船にフェリーが航行するのが見える瀬戸内海。店のすぐそこにみえる港をふたり一緒に見つめる。

 彼がそっと美鈴の手を握った。

「俺も香江も、母はいるけれど、頼れる両親はいません。美鈴さんと宗佑君も莉子さんも、三人若い力だけで頑張っている。一緒に頑張っていきましょう」

 頼もしい夫と出会えたことに、美鈴の目に涙が滲む。

「私、尊さんが帰ってきたいと思うような家にするからね」
「美鈴さんの綺麗な声のいってらっしゃい――はかなり効くからね。それにこうして彼女が待っていると思うと、よりいっそう頑張れるものだな、絶対に帰ってこようと思えるんだと知ったよ」

 警官姿の彼が、制帽のつばの下から美鈴を見つめて言う。
「絶対に美鈴のところに帰ってくる」
「うん」

 そのまま唇を近づけてきそうな雰囲気になって。

「あ、姉ちゃん。尊さん、来たんだ!」
 店の二階、自宅玄関の階段から弟の姿が見えた。
 美鈴はぱっと彼から離れる。

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