マリンシュガーブルー
「捜索に長けた妹様がいらっしゃるんですね。お兄様から聞いた少しだけの言葉で、松山の港にいる私と弟の店を探し当ててくださったんです。さすが警部の奥様、警部補の妹様ですね」

「うわ、香江か……」

 あいつ、余計なことする! 彼がよろめきながら嘆いたひと言に、美鈴は哀しくなった。

「やはり、余計でしたか……。私に素性を知られて、こちらから会いに来るなんて。あのまま終わったほうがやはり良かったのですね」

 うつむき、美鈴は泣きそうになりながら、なんとか声にしていた。

 彼が美鈴をまたじっと見つめている。

 今日の彼は美鈴と宗佑が知っている彼ではない。紺のスラックスに、いままで見たこともないお洒落なストライプの青いシャツを着ている。小脇に紺のジャケットを抱え、髭はすこし伸びている程度で、黒々としていた不精ヒゲではなかった。

 あの警官制服の写真の彼のように、清潔感に溢れて爽やかな男性になっている。

 やっと彼がマンション入り口の自動ドアに背を向け、美鈴へと歩み寄ってくる。

「あなたが余計なのではない。妹はおせっかいな性分で、俺が考えていることに対して先回りがしすぎて……。それが余計といっているのです」
「信じて待っていると約束したのに……。待てなくて……。あなたから聞くべきだったのでしょうけれど、あなたがどこにいるかとわかってしまったら、こうせずにいられなかったの。ごめんなさい」
「謝るのは俺です。すぐに会いに行けず、俺を待っていてくれているなら不安に思っているだろうと。それとも……会いにこぬ『ヤクザ男』などすぐに諦めてしまったのではないか……とも思っていました」

 心苦しそうに視線を逸らした彼に、美鈴は告げる。

「赤ちゃん……」

 彼がハッと顔を上げる。彼がいちばん気にしていたことだからなのだろう。
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