気高き国王の過保護な愛執
「ありがとう」

「着替えるなら手伝うわ」


ルビオは首を振った。フレデリカはそっとルビオの肩に手を置いてから、部屋を出ていった。

ひとりになったのを確認し、震える息を長々と吐く。


『記憶が戻るのを、嫌がるみたいに』


どうしても開かない扉がある。ルビオ自身、それを感じる。

開かないのは、開けたくないからだ。そのこともわかっている。

目を閉じて、心の中で手繰り寄せる。肺が痛くなるほど冷えた夜の空気。凍てつく川の水。だが自分は、河岸に上がることはせず、水の中を逃げた。

なにから?

力の入らない手を、時間をかけて握りしめた。

まだ目をそらすつもりか。

思い出したくない。ということは自分は、知っているのだ。

なにから、ではない。

誰から?

その問いの答えを。


* * *


城の中を歩いていて、ふと気がついた。

今日は妙に、人に会わない。

辺境の領主との謁見を済ませ、いつものように大回りして、図書館に寄ってから公務室に戻ろうとしていたときだった。

おかしいな、と感じた。

城内が静まり返っているわけでもない。単に、誰とも顔を合わせないのだ。

ふと視界の端に、白いものが翻った。布だ。

ちょうど食事中に使うナプキンほどのサイズのそれが、ひらひらとルビオのいる回廊に落ちてきた。

拾い上げて、落とし主を探した。

円筒型の吹き抜けになっている二階の廊下に見つけた。
< 87 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop