私の手の行方
子猫との出会いから10日程たった。

相変わらず、毎日。
今日も仕事して、家に帰るだけ。

プレミアムフライデーで
いつもより早めに終わったので
スーパーに寄ることにした。

豚コマが特売で売られていた。
これでトンカツ作るかと
今日の晩ご飯の献立を考えた。

そうなると、パン粉がない事に気がついて
粉類コーナーに向かおうとしたら
斎藤君に出会った。

「こんにちは。斎藤君」

『んわぁ!石田。晩飯の買い物?』

「そうそう。斎藤君も?」

『イヤ、雨のさご飯切れたから買いに来た
こないだ撮った、雨見る?』「見る!」

斎藤君に擽られ、お腹見せて遊んで疲れたのか
斎藤君の膝の上で、背中を丸めて寝ている
雨ちゃん。

「癒されるね」
『そうなんだよ、昼休みとかこれ見てたら
にやけて来て、気持ち悪がられる』
「そうなの?おかしいね」

『それより、おかしいのこの豚コマだろ
1キロ?これで何すんの?』

「うん。これでトンカツを作ろうかと」

『トンカツっ?』「うん」『どうやって?』
「ボール状にしてパン粉つけて揚げるの」
『何それっ!食べたい!』
「今度おすそ分けするよ」『今日食べたい!』
「今日?」『今日』
「彼女とかに申し訳ないし、今度おすそ分けするよ?」
『彼女とかいないから。雨にあいたくない?』
「逢いたいけど、」

『じゃ、これは。石田は雨のため。
俺はトンカツのため。これなら?』「了解」

契約成立、やったーとガッツポーズの
斎藤君の横を、ジト目で過ぎて行く買い物客。

そうと決まれば、晩ご飯に必要なものを
買い進めた。
ほとんど俺が食いそうだからと、
お会計してくれた。

それじゃ悪いから、デザートのプリンは
進呈しようと思う。

斎藤君のマンションは、私のマンションから
歩いて10分ぐらいのところにあった。
以外とご近所なんだなぁ、しみじみ。

部屋迄、案内してもらって扉を開けると
尻尾振って雨ちゃんがお出迎えしてくれた。
毛艶も良くて、元気そのものといった感じ。

「雨ちゃん大きくなった?」
『うん、めちゃめちゃ食って
こっちがヘトヘトなるまで遊ぶんだ』
「逢いたかったぞ~~雨ちゃん」

通じているのか、わからないけど、
返事してくれような気がする。

冷蔵庫を借りて、今日買ったものを
入れて、思いっきり遊んだ。
写真も撮らせてくれて、これで
いつでも雨ちゃんが見える。
一生懸命私の指にしがみついて
遊んでいる雨ちゃんに癒された。

気がついたら、6時半になっていたので、
早く準備しないと、晩ご飯遅くなる。

台所を借りて、夕飯の作りを始めた。

今日のメニューは、豚コマトンカツ
ほうれん草のおひたし、かぼちゃの煮物、
トマトスライス、豆腐の味噌汁、ご飯。

後は、カツを揚げるだけとなった時
雨ちゃんが私の足元にやって来た。
何やってるの?と言わんばかりに眺めている。

「雨ちゃん。今から油はねちゃうし
危ないからね、向こうで遊んでてくれる?」

イヤだ、イヤだどダダをこねる雨ちゃんも
可愛いけど、危ない。

『雨、お前も石田に会いたかったのはわかるけど、そっちいっちゃ、だめだろ。

ごめん石田ばっか、なんか手伝う?」

『もうすぐ終わるから、小皿とか用意してもらっていい?』「おぅっ」

我ながら、上出来と自画自賛して
出来上がったものを運んでもらい
晩ご飯がスタートした。

『めちゃうまいじゃん、これ。
ちゃんとトンカツじゃん!』「よかった」

『かぼちゃの煮物とか、何年ぶりだろ』
『ヤベェ、うまい、石田天才だな』
「大袈裟だよ」

斎藤君は、こっちが気持ちいいほどの見事な
食べっぷりだった。

『ごちそうさまでした』「お粗末様でした」

食器を片付け、デザートタイムにした。
私は、プリンを進呈した。
えっいいの?と言いつつも、嬉しそうなので
甘いものは嫌いでは無いようだ。

雨ちゃんは、お腹いっぱいで眠たいのか
膝の上でウトウトしている。

これまでの、心の乾きが一瞬で潤い始める。

『石田の手って、綺麗だよな』「いきなり何?」

『書類受け取る時の石田の手って、綺麗なんだよ
言われない?』「そんな事言われたことないよ」

『皆んな、目どこについてんだろうな?』
『斎藤君の目がおかしいのよ」
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