私の手の行方
食べ終わり、後片付けをしてお暇する事にした。

雨ちゃんも怪訝そうな顔をしてるけど、
本来なら今日の衣替えの予定だったから。

斎藤君もゆっくりしてけよと言ってくれたが、
丁重に御断りして、帰った。

家に帰って来たが、やる気が起きず
結局眠る事にした。

多分、私は調子に乗っていた。
冷静に考えて、
自分に需要がない事は分かっていた。
非日常に酔っていただけだ。
痛い女になりかけていたから、気づけてよかった。

気が付いたら、日曜日のお昼前だった。
寝すぎて、身体が痛い。
シャワーを浴びて、掃除して、ご飯食べて、
読書して、ご飯食べて、お風に入って、寝る。
それだけ。

よく眠ったので、なかなか寝付けなかった。
雨ちゃんの写真を見てると、癒される。
眠くて仕方ない雨ちゃんを見てると、
だんだん眠くてなってきて、そのまま眠った。

月曜になり、何時ものように出勤して、
何時ものように仕事して、
珍しく残業して退勤した。

なんの代わり映えもしない、普通の毎日。
それで良い。それで良い。

今日は何か作る気が起きないので、久しぶりに外食する事にした。

最初は、一人で食べに行く事が苦手だったのに、いつの間にか、平気になっていた。

歳を重ねるって、苦手が減って行く事なのかと思えば、悪くない。

カウンターのある洋食屋さんに入り、
ハンバーグセットを頼んだ。

他人がしかもプロが作るハンバーグは
やっぱり違う。当たり前か。
ジューシーな肉汁が口の中、いっぱいに広がる。幸せ。

お腹いっぱい食べて、家に帰った。
今日は、湯船に浸かろう。
部屋までもう少し。


『よう、お疲れ』
マンションのエントランスに、斎藤君がいた。

「お疲れ様?どうしたのこんな所で?」

黙ってこっちを見てるだけ。
「本当にどうしたの?」『お前、飯食った?』
「うん」『そっか。一人で?』「そうだよ?」

『わぁっー、こんな事しか言えねぇ。
言いたいことはそうじゃなくて、あのだな』
「落ち着いて、落ち着いて」

結局エントランスではラチがあかないので、近くのコーヒーショップで話を聞くことにした。

お互い無言。今日の無言は居心地悪い。
すると、ぐいっとコーヒーを飲んで『聞いて』といい話し始めた。

『土曜日家に来たのは、元カノ。
やり直したいって言われた。
けれど、好きなやついるから
無理だと言って断った。』

「そうだったんだね。大変って言うべき?」

『まだ話は、続くから聞いて。
その好きなやつは、何時もの静かに仕事するんだ。どんな仕事でも、嫌な顔せずにやる。
ものを渡す時も、片手じゃなくて両手で渡してくれる。手が綺麗で、笑顔がかわいい。
人の面倒もよく見てくれるし、困っているものは何でもほっとけない。 たとえ動物でも。
料理が上手くて、メガネ外した姿はめちゃ綺麗』

「そんな人、いるんだね。」
『お前だよ』




「私?」『そうお前』「何で?」
『さっき言った』「????」
『ずっと、好きだったんだよ。
飲み会で、多村が酔って気持ち悪くなってそれを介抱してる姿みてから、ずっと』「そう」



『なんか言えよ』「何を?」
『返事とか』「何の返事?」
『付き合うかどうか』
「付き合うの?」
『さっき言ったじゃん』
「言ってないよ」『言った』
「聞いてない」
『聞いてる』
「私の耳まで決めつけないで」
『付き合ってください』





この前、痛い女になる前にの
くだりがあったばかりで、
私はどうしたいんだろう。
かと言って、もう会えないと思うと寂しい。

初めてあった時は、優しく笑う人だなって思っていた。そこから、同期での集まる時ぐらいしか
会わなかっけど、雨ちゃんとの出会いで、
斎藤君との交流が増えて、楽しかった。
元カノの登場で、うろたえた私。
何でうろたえたのかは、恐らく斎藤君に
惹かれる部分があったからだろう。

『なぁ、沈黙長いよ。なんか言って』
「あのね、私枯れてる女なの。」
『????』
「その枯れてる女に、楽しくて幸せな時間を与えてくれたのは、斎藤君と雨ちゃんなの。
だけど、あなたの元カノが現れて現実突きつけられて、心がざわついた。だから、逃げた。元の枯れきった生活に戻ろうとした。」『それって嫉妬?』「わからないけど、そうなんじゃないかなと思う。」
「好きです、はい付き合いましょう。ってすぐに言いたいけど、戸惑ってる部分もあってどうしたら良いか分かんない」

『それってさ、もう答えてるよ』「そうか、そうだね」『ヤベェ、嬉しい』「そうなの?」
『うん』「そっか」『うん』……………
























私は、斎藤になった。
『有希、早く行くぞ!』
「ちょっと待って」

私の左手は、宗介のものになった。
私の右手は、雨ちゃんと、
あと少しで産まれてくる、
我が子のもの。

私の手は、次へと繋がって行く。


END
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