元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
……わぁ……。

それはまるで、闇の中に、さあっと光が差したかのようで。

音楽でいうなら、短調が長調に転じた安心感。

……ああ、この人はリーダーにふさわしい。

だって、私の暗い気持ちは、出海君のわずかな言動で、希望に塗り替えられている。

……ちょっと感動。
やっぱりすごいなぁ。

「これを食べたら夕方まで書斎にこもります。夜はジムに行きますから、希奈さんはお好きなように過ごしていただいて構いませんよ」

「じゃあ食材の買い出しに行ってきます」

「あ、僕の晩御飯は結構です。日曜は契約外ですから」

「1人分だけ作るのはむしろ難しいので、よかったら、召しあがりませんか? いや別にお嫌でなければの話ですけど!」

「では、ジムから帰ってきた後にありがたくいただきます」

出海君ははにかみながらクッキーの個包装を開けた。

そのクッキーを口にいれ、「あまっ」と顔をしかめる。

……また見惚れてしまった自分に気づき、綺麗な顔がくるくる表情を変えるのが珍しいからである、と分析と言い訳をする羽目になった。






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