元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
晩御飯用のカレーを煮込みつつ、明日からのメニューの下ごしらえをする。
自分ひとりだったら適当でもいいけど、業務となると計画立ててきっちりやりたい。
BGMは、『エロイカ』。
スマホにイヤホンをつなぎ、音楽再生アプリで、さっき出海君がオーディオで流したベートーヴェンの『エロイカ』、つまり交響曲第3番『英雄』を聴いている。
大学時代にやった曲。出海君も一緒だった。
まさか、10年もたって、出海君のために食事を作る日が来るとは、縁とは不思議なものだなぁ。
1時間弱の交響曲を聴き終わる頃、出海君が顔を出した。
私はイヤホンを耳から外す。
出海君は微笑みながら、「いい匂いですね、カレー」と言い、冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して、カップに注ぎ、レンジへかけた。
庶民的なこともするんだな。当たり前か。
「今から出かけます。帰りは8時過ぎになりますから、希奈さんは先に召し上がっていてください」
「あ、はい。行ってらっしゃい……ませ」
出海君はカップを洗って片付けると、出かけていった。
さて。
台所仕事終了。
晩御飯にはまだ早い。
本来の目的を果たすか。
スマホでバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタをかけ、音量を最大にする。
うるさっ。
そのスマホを部屋に置き、廊下に出て、ドアを閉める。
……ふむ。
リビングに行くと、ほぼ聞こえない。
今度は玄関の外に出てみると、まったく聞こえない。
さすが出海君が防音はしっかりしていると言っていただけある。