凪ぐ湖面のように
「僕は言ったよね? 君が好きだって」

確かに聞いたが……。

「僕はもう昔に戻れない。君に出逢ったから。美希のことは過去だ」

言い切る湖陽さんを訝しげに見る。

「でも、あの日……帰れと追い立てたのは湖陽さんだった……」

あの時の冷たい声が蘇り、ギュッと両手を握り締める。

「あれは……岬を巻き込みたくなかったからだ」

どういう意味? 訳が分からない。

車が到着したのは、ロサンゼルス国際空港近くのマンハッタンビーチだった。ここはLAでも屈指の高級住宅街の一つだ。

海近くの駐車場に車を停め、桟橋を行く。サンタモニカビーチのように賑々しくなく、落ち着いた雰囲気がいい。

桟橋の途中にはポツンポツンとベンチが置かれている。そこに肩を寄せ合い海を眺めるカップルが何組もいた。その一つに私たちも腰を下ろす。

波の音と恋人たちが語らう楽しげな声。時折聞こえる海鳥の鳴き声をバックミュージックに湖陽さんが話し出す。

「美希は結婚してからも――」

彼女は結婚してからも夕姫さんと密に連絡を取り合っていたらしい。
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