凪ぐ湖面のように
「違うよ。結局、体力が持たなかったんだ」

聞けば美希さんは病院を抜け出してきたらしい。

「食べないんだ」

そう言えば、とても細かった。

「だから療養所に入所させたみたいなんだけど、時々フッと意識が混濁して、記憶に残る懐かしい場所に逃走するらしい」

「えっ、ということは、湖陽さんに執着しているんじゃなくて……」

「やっと分かってくれた」と安堵の息を吐く。

「そう、今回はあの放送を見て、カフェ・レイクを思い出して来たってこと。昔は昔、美希が愛しているのは旦那だけ。ただ、意識の混濁で旦那を刺しそうになったり、君に嫌味なことを言ったりしたみたいだけど、美希の僕への思いも思い出の一部なんだよ」

湖陽さんの話を聞き終わると一気に疲れが押し寄せて来た。グチャグチャ考えていた時間は何だったのだろう?

「分かってくれたみたいだね」

フッ笑みを零した湖陽さんの手が、海風に揺れる私の髪をソッと搔き上げた。

「ところで君の方は? もう海を見ても大丈夫なのかい?」

あっ、そうだった、と舜に会ったことを伝える。

「ふーん、僕に相談も無しに会ったんだ、二人きりで……」

何だその不貞腐れた言い方は!

「まるで嫉妬しているようですね」

ふざけた調子言うと、「悪い?」とシレッと答える。
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