凪ぐ湖面のように

「ーー未遂に終わったけど、有ったんだよ、そんな事が」

錯乱し、湖陽さんとの仲を裂く者として、旦那さんが刺されそうになったらしい。

「だから私を店から遠ざけた、と言うの？」
「ああ、本当はすぐ君に会って誤解を解きたかった」

だが、美希さんがそれを許さなかった。連日来店して、朝から晩まであの席に居座り続けたらしい。

「だったら、電話でもメールでも……」と言いかけて、こんな複雑な話しをそんな手段で話されても、おそらく理解できなかっただろうと思い直す。

「旦那や美希の父親が無理に連れ戻そうとすると、暴れて、どうしようもなかった。この景色を見たいんだと言って、あの席から離れないんだ」

『ここからの景色……昔と全然変わらない』

美希さんのあの目……彼女も……分かるような気がする。癒しを求めていたに違いない。だから、離れたくなかったんだ、あの場所を。だったら……。

「なぜここに湖陽さんがいるんですか？　まさか、無理矢理美希さんを家に帰したんですか！」

そんな非情なことをしたのなら、この場でビンタを食らわす、と返事を待つ。