凪ぐ湖面のように
「何年振りだろう、こんなに落ち着いた心で時間を過ごすのは……」

私も……何年振りだろう、こんな穏やかな心で海を見るのは……と思っていた。

「きっと岬を手に入れたからだね」

コツンと湖陽さんの頭が私の頭に乗る。

「これから恋を積み重ね、二人の思い出を増やしていこう。そして……」

湖陽さんの手が優しく私の髪を撫でる。

「僕たちの未来の子に教えてあげよう。君たちは、恋がいっぱい詰まった愛の結晶なんだよってね」

子供かぁ、とボンヤリ思う。一年前には思いも寄らなかった言葉だ。
ん? 子供! ガバッと身を起こし、湖陽さんを見る。

「本当、鈍いね、君は」と湖陽さんは笑い、両手で私の頬を押さえながら言う。

「岬さん、結婚して下さいって、ストレートに言えば分かるよね」

今のはプロポーズ? ちょっと待って。さっき、本物の恋をしようと言ったばかりでは? それに、何故タコ唇の変顔で、それを受けなくてはいけないの?

アハハと笑い、「返事は?」と訊く。

「こんなの却下でふ、無効でふ。OKでも、了承したくありまへん」

頬を押さえられたまま、なんとも間抜けな返事をすると、湖陽さんがニヤリと笑う。
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