ひとはだの効能
 キッチンでメインの煮込み料理を温めながら、二人の様子をそっと見守った。

 気難しい顔で黙りこくったままの葉月くんと、俯いてもじもじしている莉乃ちゃん。二人ともなかなかワインに口をつけようとしない。

 あまり口を挟むのも野暮だし、どうしたものかと思っていると、葉月くんがパンツのサイドポケットに手を伸ばしているのが見えた。

 不自然に膨らんだ隙間から、小さな四角い箱がのぞく。ポケットから箱を取り出すと、葉月くんは莉乃ちゃんからは見えないように、膝の上に載せた。

 あの包装紙はたぶん、最近若い女の子たちに人気があるジュエリーショップのものだ。ちょっと前に雑誌で見かけたけど、葉月くんのような学生なら、シンプルなリングでもちょっとバイトを頑張らないと買えないくらいの値段だった。

「なんだよ、かなり本気じゃん」

 小声でそう独り言ちて、温めておいた皿にブランケット・ド・ヴォー(仔牛の煮込み)を装う。

 幾ら待っても乾杯すらしようとしない二人に業を煮やした俺は、メインの皿を手に二人のテーブルに近づいた。

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