ひとはだの効能
 Euphoriaでも、香澄さんはいつも仕事のことを楽しそうに話していた。仕事が詰まってしんどそうなときも、なんだかんだ言って張り切ってるのが見ていてわかったし。

 女性で営業なんて、大変なことも多そうだなって思ったけど、香澄さんは本当に楽しんで仕事をしてるってことが伝わってきた。

「そんな感じで、結構うまくやってるつもりだったの。でも、祈ちゃんの結婚式の前日、久々に呼び出されたと思ったら……」

 おもむろにカップを握り、ごくごくとすっかり冷めきった珈琲を飲み干すと、再び香澄さんは口を開いた。

「専務の娘さんと結婚することになった、っていきなり言われたの。だから、私とは別れるって」

「別れてほしい」と頼むでもなく、「悪かった」と謝るでもなく、それは「別れる」というただの宣告だった。香澄さんは、震える声でそう口にした。


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