ひとはだの効能
 自転車に飛び乗り、店の前から由比ガ浜の駅まで走る。駅舎にもホームにも香澄さんの姿はない。

 また国道まで戻って海岸線をやみくもに走り回るが、やはり香澄さんらしき人はどこにも見当たらなかった。

 気づくが遅すぎた。さすがにもう、香澄さんはこの辺りにはいないだろう。

 香澄さんの誕生日の夜、俺の家に行く途中で立ち寄ったコンビニの駐車場に入り、スマホを取りだす。

 なぜ香澄さんは、店の中に入って来なかったのだろう。

 アルがいたから? いや、いつもの香澄さんなら、アルに怯えつつもちゃんと中に入って俺に声を掛けてくれるはずだ。

 きっとアルが理由じゃない。

 香澄さんと直接会って、ちゃんと話がしたい。諦めきれない俺は、縋るような気持ちで彼女に電話を掛けた。

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