ひとはだの効能
 何度コールしても香澄さんは電話に出ない。当てもなく自転車で走り回ったせいで汗ばんだ肌が、海風に吹かれ徐々に体温を奪われていく。

 寒気を感じ、コンビニの中に入ろうとした時、それまで空しく鳴り響いていた呼び出し音がぷつと途切れた。

 スマホを耳に押し付け、緊張で痛む胸を左手で押さえつける。

「……もしもし」

 息を殺して返事を待つ。

「……香澄さん?」

 しかし香澄さんは応えてはくれない。

「Pregareプレガーレに来てくれたよね?」

 微かに息を呑む音が聞こえた。やはりあれは香澄さんだったんだ。

「直接会って、話がしたいんだ。今どこにいるの?」

「わ、私……」

 ようやく耳に届いた声に安堵のため息を漏らす。しかしそれ以上言葉が続かない。

 耳を澄ますと、遠くにすっかり耳慣れた音が響いた。

 暗闇の中、寄せては返し白い飛沫を飛ばす波の音。香澄さんはきっと近くにいる。

「……Pregare」

「絶対にそこ、動かないで」

 そう言って通話を切ると、俺は再び自転車に飛び乗った。

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