ひとはだの効能
「香澄さん?」

 香澄さんは俯いたままで、返事をしない。いくら待ってもなかなか顔を上げようとしない彼女の腕をグッと引き寄せた。

「やめ……」

 両手で俺の胸を押して逃げようとした彼女を、ドアと自分の身体の間に閉じ込める。 

「……お願い。離して、遊馬くん」

「絶対嫌だ。ちゃんと答えてくれるまで逃さないよ。お互いに変に勘繰って、すれ違うのはもうたくさんなんだ」

 華奢な肩を抱き寄せ、胸の中に身体ごと押し付ける。

「好きなんだ、香澄さんのことが。他の誰にも渡したくないんだよ」

「う、嘘……」

 腕の中で、くぐもった声が響く。

「嘘じゃない!」

 強く言うと、香澄さんはようやく顔を上げた。

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