ひとはだの効能
 浅い眠りに支配され、靄がかかっていた頭の中がゆっくりとクリアになっていく。

「……香澄さん、Pregareの意味知ってたんだ」

 店の名前『Pregare』は、香澄さんが言うように祈ちゃんの名前から付けたものだった。

「遊馬くんと過ごしたあの日のこと、私はずっと忘れられずにいたから」

 意識を半分眠りの世界に残したまま、香澄さんが甘えるように俺の肩に頭を寄せる。彼女の声に耳を傾けながら、その肩を優しく抱き寄せた。

「一緒にいる間中たくさん名前を呼ばれて、あんな風に私のことを必要としてくれて……本当に嬉しかったの。たとえ一晩限りの、幻のような出来事だったとしても、あなたに大事にされた記憶があれば、私は一人でもやっていけるって思ってた。でも……」

 言葉に詰まった香澄さんの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。彼女の頬を伝い溢れ出した雫が、俺の裸の胸にぽつぽつと零れ落ちた。

「ダメだった。遊馬くんの顔を一目見たら、想いが溢れて。だけどすぐお店の名前の意味に気がついて……自分の気持ちに気づいてないふりをしてきたの」


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