ひとはだの効能
「香澄さん……」

 彼女に我慢を強いていたのは、俺だった。

 香澄さんの気持ちをずっと知らなかったとはいえ、明かされた事実が痛いほど胸を刺す。

「……苦しい思いをさせてごめんね」

 堪らず肩を抱き寄せ、眠たいせいか少し熱くなった頬に顔をすり寄せると、香澄さんはくすりと小さく笑いをこぼした。

「もういいの。またここに戻ってこれたから」

 そう言って俺の胸に顔を埋め、背中まで腕を回す。

『離さない』とでも言うように一度ぎゅっと腕に力を込めると、

「遊馬くん、あったかー……」

 消え入りそうな声で、そう呟いた。

 俺のせいで、彼女にずいぶんつらい想いをさせてしまった。でもこれだけは、今伝えておかなければ。

「香澄さん、待って。まだ寝ないで」
    
 今にも寝落ちてしまいそうな彼女の肩を小さく揺すると、俺の腕の中で寝ぼけ眼の香澄さんがゆっくりと顔を上げた。
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