ひとはだの効能
 彼女が選んだのは、一番シンプルなトーストとスクランブルエッグのプレートだった。食後に持って来てほしいと、珈琲ではなく紅茶を頼む。

「お待たせしました」
「美味しそう。いただきます!」

 ぱちん、と行儀よく両手を合わせるとトーストから手をつけた。散歩のあとで腹が減っていたのか、プレートの端から順に綺麗に片づけていく。

 お冷のお代りを持って行くと、料理はほとんどなくなっていた。

「ホントに美味しかった! あー、幸せ……」

 満足そうに椅子に凭れ、傍らに座るアルの頭をゆっくりと撫でる。

「ありがとうございます」

 幸せそうな表情に、思わず笑みが漏れた。

「すぐに紅茶お持ちしますね」

 空になったプレートを受け取り、頭を下げる。再びキッチンへ向かおうとすると、

「あの、すみません!」

 エプロンの裾を掴まれた。


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