ひとはだの効能
突然の大きな声に驚いたのか、彼女のすぐ横で寝そべっていたアルがむくっと体を起こした。
「あっ、ごめんねアル。なんでもないよ」
飼い主の危機ではないとわかって安心したらしい。彼女が背中をさすってなだめると、アルはゆっくりと体を床に沈めた。
「あのお客様……」
「え? ご、ごめんなさい」
俺のエプロンをつかんだままだったことにようやく気づき、慌てて手を離す。無意識だったのだろうか。自分の行動に驚いたのか、彼女は小さな耳たぶを真っ赤に染めた。
「どうかされました?」
少しだけ腰をかがめ、彼女の視線に合わせる。テーブルの端に置いていたドリンクメニューを取ると、彼女は珈琲と紅茶が載ったページを開いた。
「あの、紅茶の種類って選べるんですか?」
「すみません。モーニングやランチのセットでお出しするのはダージリンのみと決まってまして」
そう数は多くないが、紅茶は数種類置いている。何か好みのものがあったのだろうか。
「そっかあ、残念。ちょっと飲んでみたいのがあったから」
「紅茶お詳しいんですか?」
「詳しいってほどじゃないんですけど、私珈琲飲めないから、そのぶん紅茶にはまってて」
「……珈琲苦手なんですか?」
「はい。この歳で珈琲も飲めないなんて、ちょっと情けないんですけど。あの苦いのがどうしても苦手で」
「学生さんかな」
「はい。一応、大学の三年生です」
そう言って、恥ずかしそうに肩を竦め、耳に髪をかける。形のいい少しだけ尖った左耳が露わになった。
「あっ、ごめんねアル。なんでもないよ」
飼い主の危機ではないとわかって安心したらしい。彼女が背中をさすってなだめると、アルはゆっくりと体を床に沈めた。
「あのお客様……」
「え? ご、ごめんなさい」
俺のエプロンをつかんだままだったことにようやく気づき、慌てて手を離す。無意識だったのだろうか。自分の行動に驚いたのか、彼女は小さな耳たぶを真っ赤に染めた。
「どうかされました?」
少しだけ腰をかがめ、彼女の視線に合わせる。テーブルの端に置いていたドリンクメニューを取ると、彼女は珈琲と紅茶が載ったページを開いた。
「あの、紅茶の種類って選べるんですか?」
「すみません。モーニングやランチのセットでお出しするのはダージリンのみと決まってまして」
そう数は多くないが、紅茶は数種類置いている。何か好みのものがあったのだろうか。
「そっかあ、残念。ちょっと飲んでみたいのがあったから」
「紅茶お詳しいんですか?」
「詳しいってほどじゃないんですけど、私珈琲飲めないから、そのぶん紅茶にはまってて」
「……珈琲苦手なんですか?」
「はい。この歳で珈琲も飲めないなんて、ちょっと情けないんですけど。あの苦いのがどうしても苦手で」
「学生さんかな」
「はい。一応、大学の三年生です」
そう言って、恥ずかしそうに肩を竦め、耳に髪をかける。形のいい少しだけ尖った左耳が露わになった。