ひとはだの効能
「ごちそうさまでした」
「いつもありがとう。バイト頑張って」

 会計を済ませ、入り口まで莉乃ちゃんを見送る。
 まだ夕方の五時を過ぎたばかりなのに、太陽はもう海の向こうに沈みかけていて、季節の移ろいを感じた。

 今日のバイト先は腰越らしい。ここから電車で十五分くらいだけど、たぶん着く頃には、もう日が暮れている。

「暗くなるの早いから気をつけてね」
「はい、また来ます……きゃっ、すみません!」

 俺に手を振りながら外に出たせいで、莉乃ちゃんは店に入ろうとしていた人に顔からぶつかった。

「いいえ、私も電話に気を取られてたから。ごめんなさい、怪我はない?」

 慌てた様子で莉乃ちゃんの顔を覗き込んだのは、香澄さんだった。スマホを肩先に伏せ、少ししゃがんで莉乃ちゃんに視線を合わせる。

 彼女と正面から向かい合うと、なぜかぴくと一瞬体を強張らせた。

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