ひとはだの効能
「……どうしよう。おでこ、赤くなってるわ」
「あの、私全然痛くないし、平気です。私の方こそ、よそ見していてごめんなさい!」

 恥ずかしそうにぺこりと頭を下げると、莉乃ちゃんは「失礼します!」と半ば叫ぶようにして、駅の方向に駆け出した。その姿を、香澄さんが呆然と眺めている。

「香澄さん、電話いいの?」
「ああ、そうだった」

 スマホを耳に当て、見えない電話の相手にペコペコと謝って通話を終えると、香澄さんはスマホを鞄に仕舞って俺を見た。

「……来ちゃった」

 少しだけ気まずそうな顔をして、俺から視線を逸らす。

 香澄さんがこの店に来るのは、オープン前のあの日以来だ。
 予想外の再会を果たした、夏の終わり。

「待ってたよ」

 居心地悪そうに突っ立ったままの香澄さんの手を引いて、誰もいない店内の奥の席に座らせた。
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