ひとはだの効能
『そいつのこと忘れられるまで、俺がそばにいてあげる』

 久しぶりの再会を果たした日、俺は香澄さんにそう言った。

 香澄さんが望むことなら、なんでもしてあげようと思った。そう思わせるくらい、あの夜の香澄さんは目に見えて落ち込んでいたからだ。

 俺は息を詰めて、香澄さんの返事を待った。

 抱きしめた腕の中から、香澄さんの香水が立ち上ってくる。体温で温められ一層強くなる香りは、二人が交わった夜を思い出させ、身体は自然と熱くなる。

 ふいに、鎖骨の辺りで瞬きの気配を感じた。

 ……彼女は今、泣いているのかもしれない。

 普段強気な香澄さんが俺だけには弱さを見せてくれる。愛しくて思わず抱きしめる腕に力を込めた。

 ものすごく長い時間のように感じたけれど、実際はほんの数秒のことだったのかもしれない。

 少しして、香澄さんはやんわりと俺の腕を解くと、ぐすと鼻を鳴らして顔を上げた。
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